1993年(第1回)受賞者
氏名 | ギリアン トルミー プランス Ghillean Tolmie Prance |
---|---|
生年月日 | 1937年7月13日 |
国 籍 | 英国 |
所属・役職 | 王立キュー植物園園長 |
授賞理由
プランス博士のもともとの専門は、熱帯の木本植物、つまり樹木類の分類学的な研究である。この研究のためプランス博士は、ニューヨーク植物園に在籍し、1960年代から30年間にわたって、アマゾン地域で現地調査を続け、アマゾン地域の植物研究に世界的な貢献をした。
現在地球上にどのような植物が存在し、それらがどのような特性をもっているのかを地域ごとに分類し、記録したものを植物誌と言うが、現在、世界の各地域で、数多くの研究者がこの植物誌づくりに取り組んでおり、この分野でプランス博士は国際的な活躍をしている。
まず、博士自身の長年にわたる分類学研究の成果に立って、南米アマゾン地域を中心とする新熱帯植物誌の編集の責任者となり、執筆も担当し、着々と計画をすすめ、さらには、目を地球全体にひろげて、地球上の各地域の植生を、統一したデータベースに集大成する 「地球植物誌計画」という壮大なプロジェクトを提唱し、これを実現するために、世界の主な植物園や植物研究施設と協力して活動を続けている。
一方、現地調査の中で、プランス博士は、アマゾン地域に住んでいる人々と植物の関わりに強い関心を持ち、人々の暮らしと植物との関わり、人々が植物を利用しているかたちなど、自然と人間との関わりについての幅広い調査研究を実施し、この分野でも優れた業績を収めた。
また、地球上で最も多種多様な植物が生育しているといわれるアマゾン地域で、開発によって、数多くの植物が絶滅の危機にさらされていることを体験し、今、危機に瀕している植物を救うにはどうすればよいか、さらに、今後我々が環境を守りながら、持続的に植物を利用するために、人間はどのような行動をとるべきかなど、植物学の立場から、自然保護と環境保全について積極的な提言をしている。
このような学術面での業績とともにプランス博士は、王立キュー植物園の園長として、植物園の社会的活動にも優れた成果を収めている。
キュー植物園は 200年以上の伝統を持ち、世界最大規模の植物標本を整備して、植物学の基礎研究に国際的な貢献を続けている世界の代表的な植物研究機関であるが、プランス博士は、1988年に園長に就任して以来、それまでの25年間に及ぶニューヨーク植物園での経験を生かしながら、キュー植物園の機能をフルに発揮して、施設での植物の系統保存や、環境教育の推進など、学術研究と社会教育の両面で、自然を保護し、人間が自然とともに生きる新しい道を求める努力を続けている。
プランス博士の研究と業績を総合すると、博士は、アマゾン地域での植物の基礎研究からスタートして、それを全地球的な視野に広げ、明日の地球を考える長期的な展望の中で、植物と人間との共生の道を求める努力を続けてきたいうことができ、また、その研究への取り組みは、専門的な研究を基礎に、多様な対象の生物を地球的視点で統合的にとらえようとするものであると評価できる。
経歴
1952~1956年 | モールヴァン・カレッジ |
1957~1963年 | オックスフォード大学キーブル・カレッジ |
1963年 | 森林植物学の博士号取得―論文テーマ: 「クリソバラヌス科の分類学的研究」 |
1968~1975年 | ニューヨーク植物園アマゾン植物学学芸員 |
1975年 | ニューヨーク植物園研究部長 |
1977年 | ニューヨーク植物園副園長 |
1981年 | ニューヨーク植物園有用植物学研究所所長 |
1988~1999年 | 王立キュー植物園園長 |
1988年~ | レディング大学客員教授 |
1993年 | 英国学士院特別研究員 |
1995年 | ナイトの称号を受勲 |
2000年~ | エデン・プロジェクト科学部長 |
主な著作論文
- Chrysobalanaceae (クリソバラヌス科)
新熱帯植物誌 9,409pp. 1972. - Phytogeographic support for the theory of pleistocene forest refuges in the Amazon Basin, based on evidence from distribution patterns in Caryocaraceae, Chrysobalanaceae, Dichapetalaceae and Leoythidaceae.
(カリオカル科、クリソバラヌス科、ディカペタルム科とブラジルナッツ科の分布パターンから得られた証拠に基づく、アマゾン川流域が更新世における森林の避難所であったとする説に対する植物地理学的証拠)
Acta Amazonica 3 (3):5-28. 1974. - "Extinction is Forever (絶滅すれば最後)"、「アメリカの絶滅危惧植物に関するシンポジウム」紀要 ニューヨーク植物園 1977. (共編者:T.S.Eliss)
- The Actinomorphic-flowered New World Lecythidaceae (放射総称の花をもつ新大陸産ブラジルナッツ科植物)
Lecythidaceae (ブラジルナッツ科)-Part I. Flora Neotropica 21:1-270. 1979. (共著者:Scott A. Mori). - "Biological Diversification in the Tropics(熱帯地方の生物学的多様性)"
「第5回ATBシンポジウム(ヴェネズエラ カラカス)」 の議事録、1979(編集:G.T.プランス) コロンビア大学出版局 1981. - "Ethnobotany in the Neotropics(新熱帯区の民族植物学)" 「有用植物学の進歩」
Vol.1.1984. (共編者:J.Kallunki) - "Amazonia (アマゾニア) "Key Environments, Pergamon Press 1985. (共編者:T. E. Lovejoy)
- Quantitative Ethnobotany and the Case for Conservation in Amazonia (アマゾン地域における数量民族植物学と環境保全) Conservation Biology Vol.1 No.4 1987.
- "Biogeography and Quanternary History in Tropical America
(熱帯アメリカにおける生物地理学と第4紀の歴史)"
Oxford Monographs on Biogeography 3. Clarendon Press, Oxford 1987. - The Present State of Tropical Floristics (熱帯植物誌研究の現状) Taxon 37(3), 1988.
- The Genera of Chrysobalanaceae: a study in practical and theoretical taxonomy and its relevance to evolutionary biology.(クリソバラヌス科の属:実用的および理論的分類と、進化論による生物学との関連における研究)
Phil. Trans. Roy. Soc. London B. 320 : 1-184,1988 (共著者:F. White). - "Tropical Forests and World Climate (熱帯林と世界の気候)"Proceedings of an AAAS Symposium, Westview Press 1988.
- American Tropical Forest(アメリカの熱帯林)
Tropical Rain Forest Ecosystems, ed. by H. Lieth and M. J. A. Werger 1989. - "White Gold (ホワイト・ゴールド)"The diaries of an Amazon rubber tapper(アマゾンのあるゴムの木の樹液採取者の日記) Synergetic Press 1989.
- Taxonomy, Ecology, and Economic Botany of the Brazil Nut
(ブラジルナットの分類、生態と有用植物学)
Advances in Economic Botany 8, 1990. - Consensus for Conservation(環境保全についての意見) Nature, Vol.345, No.6274 1990.
- Future of the Amazonian Rainforest (アマゾン地域の熱帯雨林の将来)
Futures, November 1990. - New Directions in the Study of Plants and People (植物と人間の研究における新たな動向) Advances in Economic Botany Vol.8. 1990 (共編者:M.J. Balick)
- Reproductive Biology and Evolution of Tropical Woody Angiosperms (熱帯林の被子植物の生殖の生態と進化)
Mem. New York Botanical Garden 55. 1990. (共編者:G.Gottsberger) - Biodiversity-The Richness of Life (生物の多様性―生命の豊かさ) Save the Earth (地球を救え) by Jonathan Porritt 1991.
- Missionary Earth Keeping(地球保全を訴える)
Mercer University Press, 1992. (共著者:C. B. Dewitt) - Changes and disturbance in tropical rainforest in South-East Asia(東南アジアにおける熱帯雨林の変化と障害)
Imperial College Press, London, 2000. (共著者:D.M.New berry & T. H. Clutton-Brock)