1996年(第4回)受賞者
氏名 | ジョージ ビールズ シャラー George Beals Schaller |
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生年月日 | 1933年5月26日 |
国 籍 | アメリカ |
所属・役職 | 野生生物保護協会科学部長 |
授賞理由
ジョージ B.シャラー博士は、1962年にアメリカ・ウィスコンシン大学で動物学の博士号を取得、その後30余年にわたって、野生動物たちの生々しい生活を研究し続けてきた、国際的な学者の一人である。その業績は、数多くの科学論文として発表されたばかりでなく、それらを集大成した著書は、世界各国で翻訳されて高い評価を得ている。
博士の特色は、ゴリラ、ライオンをはじめとする人間に最もなじみ深く、従って、人間の行為によって大きな影響を受けている野生動物たちに目を向け、アフリカ、アジア、南アメリカなど、地球全域を対象に、精力的な調査、研究を行ってきたところである。
博士が研究の対象とした野生動物は、ゴリラ、トラ、ライオン、野生のヤギ、ヒツジ、ジャガー、ユキヒョウ、パンダなど、多種類にわたっている。そして、それらの動物のほとんどが主として人間の行為によって数を減らし、あるいは絶滅の危機にさらされていることを、綿密な現地調査に基づく研究によって学問的に立証した。
シャラー博士は、これらの成果を、学問の世界でのみならず、広く一般の社会にも知らせるために、1963年に名著「マウンテン・ゴリラ:生態と行動」を出版したのを始め、1972年に「セレンゲティのライオン」、1985年に「ウォロンのジャイアントパンダ」、1993年に「最後のパンダ」など一般向けの著書を次々に刊行した。
これらの著書の中でシャラー博士は、彼の長年の労苦によって明らかになったそれらの動物たちの自然の中における生き方をありありと人々に伝えることによって、動物が生き残るためには何が必要かをはっきりと提示し、人間が他の生物と共生するためには、人間が他の生物が存在することの必要性を理解し、自分たちが果たすべき役割について、深い科学的理解と倫理観を持たなければならない、と訴えている。
シャラー博士の研究は、各国の動物学者だけではなく、全世界の様々な人たちにも強い刺激を与え、多くの野生動物の行動や動物に関する幅広い研究の発展を推進しただけではなく、世界各地で絶滅の危機にある動物を救おうとする人々を大いに励ますことになった。それは、人間と野生動物との関わりを考える上で、極めて大きな貢献をもたらしたといえる。
また、シャラー博士は、子供たちが自然に目を向けるためのわかりやすい解説書として、1969年に「トラ: その野生の生態」、1977年に「ライオンの驚異」を刊行している。学者から一般社会人、そして子供たちまで、各世代、各界層に目配りした著作によって、科学者としての立場と、大衆向けの活動を両立させていることも、彼の際立った特色といえる。
動物学者として多くの近づき難い野生動物の生活の全容を明らかにする国際的な業績を挙げていること、常に全地球的な視野を持ち、包括的な取り組みで研究を続け、その成果を全世界に発表して、極めて多くの人たちに強い感銘を与えていること、研究の成果が、人間と自然との共生へ向けて、従来の自然保護運動のあり方を含めて、新しい視点と倫理観をもたらす国際的な貢献をしていることなど、ジョ ージ B. シャラー博士の業績は、コスモス国際賞がめざしているものと合致しており、受賞者としてもっともふさわしい人物ということができる。
略歴
1955年 | アラスカ大学 文学士号、理学士号 |
1962年 | ウィスコンシン大学 博士号 |
1962~1963年 | スタンフォード大学行動科学先端研究センター 特別研究員 |
1963~1966年 | ジョンズ・ホプキンス大学病理生物学科研究准教授 |
1966~1972年 | ニューヨーク動物学協会およびロックフェラー大学動物行動研究所准教授 |
1972~1979年 | ニューヨーク動物学協会フィールド生物学・保護センター、研究動物学者およびコーディネーター |
1979~1988年 | ニューヨーク動物学協会、野生生物保護インターナショナル部長 |
1988~2001年 | ニューヨーク動物学協会(現 野生生物保護協会)、野生生物保護インターナショナル科学部長 |
2001年~ | 野生生物保護協会科学調査プログラム副代表 |
他の関連団体
- ロックフェラー大学准教授
- アメリカ自然史博物館研究准教授
- 北京大学准教授
主な著作
(注・シャラー博士の主要な著書を掲載しております。著書名は、いずれも仮訳です。)
1963年 | マウンテンゴリラ シカゴ大学出版局 |
1967年 | シカと虎―インドの野生動物の研究 シカゴ大学出版局 |
1972年 | セレンゲティライオン シカゴ大学出版局 |
1977年 | 山の王者―ヒマラヤの野生のヒツジとヤギ シカゴ大学出版局 |
1985年 | 野生のパンダ (共著) シカゴ大学出版局 |
1998年 | チベットの野生生物 シカゴ大学出版局 |
ブラジルのマト・グロッソ州にあるパンタナル沼沢地(1978年)。シャラー博士は1970年代後半をブラジルで過ごし、ジャガー、アリゲーター、大型齧歯類のカピバラなどの動物を研究した。彼は野生のイノシシが好きで、クチジロペッカリーの子どもと親しげに挨拶を交わしている。
四川省の臥竜保護区(1981年) 1980年から1985年にかけて、シャラー博士は中国人の科学者と協力してジャイアントパンダの初めての詳細な研究を行った。博士(左)と共同研究者は、パンダの身体計測をし、それから無線発信器付きの首輪を付けた
チベット北西部(1992年) 過去10年間、シャラー博士は調査と環境保護活動をチベット北部の標高約4500メートルの高原であるチャン・タン地域で集中的に行い、そこでチルーや野生のヤクなどの動物を研究した。広さ33万4000平方キロメートルの保護地は、野生生物保護協会とチベット森林管理局の共同の努力の結果、設立された
パンダ・プロジェクトでは、中国人の生物学者や技術者に訓練をほどこした。写真は、2人の共同研究者が遠隔測定法でパンダを探知し、三角法でその位置を記録している(1982年)
四川省の臥竜保護区(1982年) パンダの生息地におけるシャラー博士たちの研究キャンプは簡素なものだった。2年間、季節を問わず、博士とケイ夫人はこのテントで生活した