2005年(第13回)受賞者
氏名 | ダニエル・ポーリー Daniel Pauly |
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生年月日 | 1946年5月2日 |
国 籍 | フランス |
所属・役職 | カナダ ブリティッシュ・コロンビア大学水産資源研究所所長兼教授 |
授賞理由
ダニエル・ポーリー博士は、世界的な水産資源の問題に学問的に取り組むと同時に、データの収集・管理に、実際的で判り易い方法を発案、実施して、地球生態系の重要な要素の一つである水産資源の適正な維持・開発に、大きな貢献を重ねてきており、この分野において世界から最も尊敬されている研究者の一人である。
ポーリー博士は、数奇な生い立ちを経験している。1946年アメリカ人の父とフランス人の母の間にパリで生まれ、父に捨てられ、幼くして生母からも引き離されて、フランス語圏スイスの家庭で使用人のような形で育ち、ドイツに逃れて自力で中等教育と大学教育を受け、1979年にキール大学にて漁業(水産)生物学の博士号を取得した。漁業への関心は、そうした生い立ちのなかで、人類に役立つ人間となることを志したからだと言われる。
水産資源の問題の実際を知るべく、アフリカ、インドネシアなどに調査に赴き、1979年にはフィリピンの国際水産資源管理センター(ICLARM)に勤務し、魚類の体長を基礎とした年齢区分方法を開発し、途上国での水産資源研究に見合った方法として、高く評価されることになった。
また、魚類全体を対象にした「FishBase(フィッシュベース)」というデータベースの開発を指導、その発展に中心的な役割を果たした。現在、「FishBase」には、3万種近い魚類の情報がわかりやすい形で記載され、世界最大の魚類のデータベースとして研究者のみならず、一般の人々にも広く利用されている。
現職のカナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学水産資源研究所では、水産資源管理のための研究・調査・政策提言のプロジェクトの主宰者となった。レイチェル・カーソンの著作名に倣って「(The Sea around Us(我らを巡る海)」と名付けられたこのプロジェクトは、海洋生態系において漁業が与える地球的規模での影響を調査したもので、漁業の動向や漁業の持続的発展、生態系に基づく漁業政策の研究に役立っている。
長年にわたる水産資源についての情報の蓄積をもとに、世界の海での魚の乱獲が、水産資源に危機的な状況をもたらしつつあることを警告。水産資源の管理については、単一の魚種だけでなく、広く海洋の生態系を考えることが必要だと指摘し、漁業が海洋生態系に与える影響について、数多くの学術的な研究を発表した。とくに「Fishing down food webs(食物網における漁獲対象の低次化)」という概念、つまり海洋における食物連鎖の上位に位置する大型魚類の漁獲がすすむと、漁獲の対象が、次々に下位の中型魚類、さらに小型魚類へと移行するかたちで、水産資源の枯渇と海洋生態系の破壊が起こっている可能性を、科学的に論証した。また、この研究において用いられた漁業が海の生態系に与える影響を評価・査定する方法論モデル「Ecopath(エコパス)」の開発にも寄与した。
そうした活動のなかで、ポーリー博士は500編を越す学術論文を著名な学術誌(『サイエンス』や『ネーチャー』なども含む)に精力的に発表するとともに、30冊以上の書籍にもまとめられ、海と人間との関わりを考える貴重な提言となっている。
水産資源の運命は、海洋や湖水の生態系に限局された結果を生むのではない。それは海洋生物に依存する陸棲生物(人間を含む)の生態系にも巨大な影響を与える。その意味で、ポーリー博士の業績は、「『自然と人間との共生』の進展に役立ち、統合的で学際的な成果と認められる」という本賞の基本理念にも見事に合致しており、単なる漁獲規制に走るのではなく、長期的な観点から、人類の豊かな漁業の「持続可能性」を追求するということが視野に納められているという点で、四面を海に囲まれ、歴史的に水産資源に頼ってきた日本に、あらためて漁業や水産資源の問題の認識を高める意味でも、コスモス国際賞の授賞にふさわしいと評価した。
略歴
1974年 | ドイツ キール大学 修士号取得 |
1979年 | ドイツ キール大学 博士号(漁業生物学)取得 |
1978年 - 1979年 | ドイツ キール大学漁業生物学部研究助手 |
1979年 - 1993年 | フィリピン 国際水産資源管理センター(ICLARM) 博士研究員、研究科学者、研究主幹、所長を歴任 |
1994年 - | ブリティッシュ・コロンビア大学教授 |
1997年 - 2000年 | 国際水産資源管理センター FishBase Project科学顧問 |
2003年 - | ブリティッシュ・コロンビア大学水産資源研究所所長 |
賞歴
2001年 | Murray Newman Award for Excellence in Marine Conservation Research Oscar E. Sette Award (American Fisheries Society) |
2003年 | Scientific American’s 50 Research Leaders in 2003 |
2004年 | Roger Revelle Medal from IOC/UNESCO Award of Excellence (American Fisheries Society) |
2005年 | Edward LaRoe Ⅲ Award (Society for Conservation Biology) |
著作
1994年 | On the Sex of Fishes and the Gender of Scientists: a Collection of Essay in Fisheries Science |
1997年 | Méthodes pour l'évaluation des ressources halieutiques |
2003年 | In a Perfect Ocean: fisheries and ecosystem in the North Atlantic |
2004年 | Darwin’s Fishes: an encyclopedia of ichthyology, ecology and evolution |