2006年(第14回)受賞者
氏名 | ラマン・スクマール Raman Sukumar |
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生年月日 | 1955年4月3日 |
国 籍 | インド |
所属・役職 | インド科学研究所生態学センター教授 |
授賞理由
2006年コスモス国際賞受賞者、ラマン・スクマール博士は、1955年インドのマドラス(正式名称はチェンナイ)生まれである。
2006年コスモス国際賞受賞者、ラマン・スクマール博士は、アジア象の研究や関連するインドの生態学的研究において世界で最も指導的な人物である。
スクマール博士の学術的な業績は、西ガーツ山脈を舞台とする生態学並びに保全生物学分野の研究活動である。とりわけ象と人間の生態関係及び両者の軋轢への対処をテーマとした研究は、野生生物と人間との共存というあまり開拓されていなかった分野での先駆的な取り組みとして国際的に認められている。
アジア象は、絶滅が危惧されているアフリカ象と並んで、個体数の激減が問題となっており、博士は、25年に亘って生物学的、生態学的な研究を行い、あまり知られていなかったアジア象に関する包括的な研究成果を蓄積してきた。
もともと象は野生の危険な生物でありながら、その強大な力と賢い頭脳とによって、人間に利用され、共存してきたし、人間の象についての理解と知識が豊かに蓄積されていた。しかし、現代では、森林の伐採と土地の開発が進んで、象の生息条件が悪くなると同時に、象が人間の耕作する農作物を奪うようになり、また機械力が象の労働力に代わるようになって、人間社会と野生の象社会との関係が激変し、両者の間に深刻な緊張と軋轢が生じるようになった。それは、一方では象によって年間確実に500人近い人々が(西ベンガル地域だけでも)殺され、他方では、人間による殺戮も含めて象の個体数の顕著な減少にも繋がってきた。スクマール博士は、象の生態学的、動物行動学的な研究成果を踏まえて、こうした人間社会との間の軋轢を取り除くために、多くの手法を開発し、象と人間との共存の途を開いてきた。たとえば、野生の象に発信機を装備した首輪を付け、衛星を使ったナヴィゲーションによって、常に象の位置測定ができるようにしたことは、行動学的な知見の増大に役立つだけではなく、象の群れの行動地図を作成することを可能にし、さらには特に獰猛な個体や群れが村落に近づいたときには、警報を発するシステムの開発にも繋がった。また、象の生息上重要なコリドー(回廊)を発見し、それを保護するために、土地利用政策に指針を与えた。このように、人間と象が、同じ自然環境のなかで平和裏に棲み分けすることが、結局は象の絶滅を救う保護、保全になるという認識に立っている。その後この研究は、アジア各国の数多くの野生生物保護プログラムの科学的基盤となった。このことは、人口の急増する東南アジアで、広大な生息域を必要とする陸上最大の動物との共存の可能性を示したことの意義は大きく、その手法には他の動物の保全に役立つ多くの示唆を含んでいる。
さらに博士は、研究領域を広げ、そこでも様々な科学的貢献により評価を得ている。その一例が、西ガーツ山脈・ニルギル丘陵で、過去4万年に亘る気候変動がその土地特有の植生を形成するに至った経緯を解明し、将来の気候変動がその地域の動植物生態にどのような影響を与えるかを予測したことである。また、火災が森林の多様性構造にどのような影響を与え、その多様性が鳥類群集の構造を決定するのかなどを調査し、明らかにした。
スクマール博士が、人口増と都市化が急激に進むインドにおいて、生物多様性の保護と、自然環境の保全全般に亘って、多くの提言を行い、かつ実行していることは、地球上の様々な地域での都市化による自然環境保全、生物保全に対して普遍性をもつものであり、「自然と人間との共生」を目指すコスモス国際賞の授賞にふさわしいと評価した。
学歴
1977年 | マドラス大学 理学部卒 |
1979年 | マドラス大学 修士号(植物学)取得 |
1985年 | インド科学研究所 博士号(生態学)取得 |
職歴
1986年- | インド科学研究所生態学センター 研究員 |
1991-1992年 | プリンストン大学 フルブライトフェロー |
2001年- | コロンビア大学 主任研究員 |
2003年- | インド科学研究所生態学センター 教授 |
賞歴
1991年 | シカゴ動物学協会会長賞 |
1997年 | オランダ王室・ゴールデンアーク勲章 |
2003年 | 国際自然保護賞(英国、ホイットリー金賞) |
2004年 | T. N. コシュー記念自然保護賞(同賞の最初の受賞者) |