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コスモス国際賞

2009年(第17回)受賞者

氏名 グレッチェン C. デイリー
Gretchen C. Daily
生年月日 1964年10月19日
国  籍 米国
所属・役職 スタンフォード大学教授
http://www.stanford.edu/

授賞理由

デイリー博士は、人類社会が依存する生物多様性のもつ「生態系サービス」の価値を包括的に捉えて、「国連ミレニアム生態系評価」など国際的な取り組みに貢献するとともに、生態学・経済学を統合し、自然資本の持続的な利用のために「自然資本プロジェクト」を実施する等大きな役割を果たした。

人間活動が地球環境に大きな影響を与える一方、人類は生態系からの様々なサービスという恩恵を得て、経済活動を維持している。デイリー博士は1997年に著した「生態系サービス(Nature's Services)」において、人類が生態系から浴している恩恵と、過小評価されてきたその価値をはじめて包括的に捉え、生物多様性・生態系保全の必然性を明確に示した。自然から価値ある生態系サービスが得られるとみることは、今や保全についての重要な考え方の一つになっているが、初期の段階からその構築に関わったデイリー博士の貢献は極めて大きい。

また、生態系と生態系サービスの変化が人間生活に与える影響を評価する「国連ミレニアム生態系評価」は、デイリー博士らが提唱した国際生態系変動計画と融合して実施され、博士はその中心的な課題である生態系サービスの概念構築および定量的評価に重要な役割を果たし、同評価の目的達成に多大な貢献を行なった。

さらにデイリー博士は、生態学・経済学を統合し、自然を保全することが利益をもたらすことができるとする「自然資本プロジェクト」を立ち上げた。現在、これは科学の成果を社会的実践に移す取り組みとして、世界的なプロジェクトとなり、米国をはじめ南米、アジア、アフリカ等で展開されている。特にハワイ・オアフ島でのプロジェクトは、105k㎡におよぶ地域を「インベスト(InVEST:Integrated Valuation of Ecosystem Services & Tradeoffs)」といわれるソフトウエアを用い、生態系サービスのマッピングと評価を行い、その科学的データを基に具体策を立案し指導した。これにより自然資本への投資が行われ、土壌改良等により生産性の高い農地を作りだす他、風力・ソーラー発電、歴史的・文化的遺産のロコエ(Loko Ea)湖の復元、環境教育といった事業が進められた。これはまさに自然資本プロジェクトの有効性を示す事例といえる。 博士は常に民間セクターの参入が、環境保全を考慮した持続的な経済の発展にとって必要であり、その科学的根拠を示すことは科学者の責務であると主張し、未来のための賢明な道筋を示している。

このようにデイリー博士は、生態系サービス、自然資本という概念を定着させ、生物多様性・生態系の保全と、人類の福利と社会発展が両立できることを示す統合的な研究分野と実践の道筋を切り開いた。その功績は、自然と人との共生を理念とするコスモス国際賞の授賞にふさわしいと評価した。

学歴

1986年 スタンフォード大学 生物学部卒業
1887年 スタンフォード大学 修士号(生物学)取得
1992年 スタンフォード大学 博士号(生物学)取得

職歴

1992-1995年 カリフォルニア大学バークレー校エネルギー資源研究グループ 
ウィンスロー/ハインツ(Winslow /Heinz)研究員
1995-2002年 スタンフォード大学生物学部ビング学際研究室
(Bing Interdisciplinary Research)研究員
2002-2005年 スタンフォード大学生物学部助教授・国際学研究所上級研究員
2005年- スタンフォード大学生物学部教授・ウッズ環境研究所上級研究・
保全生物学研究センター所長

賞歴

2008年 ソフィー賞(ノルウェー、ソフィー財団の環境賞)

著作 (邦訳本なし:仮題)

1997年 「生態系サービス-自然生態系から人間が受けている恩恵について(Nature’s Services:Societal Dependence on Natural Ecosystems)」
アイランド出版
2002年 「自然の新経済学-自然保護の経済的な有効性を明らかにするための試み(The New Economy of Nature:The Quest to Make Conservation Profitable)」(共著)アイランド出版