2023年(第30回)受賞者
氏名 | クリスティン・シュレイダー=フレシェット Dr. Kristin Shrader-Frechette |
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生年月日 | 1944年 9月14日生まれ(78歳) |
国籍 | アメリカ |
所属・役職 | ノートルダム大学 オニール家講座 名誉教授 (哲学、生物科学) |
授賞理由
クリスティン・シュレイダー゠フレシェット博士は、多様な環境と人間との関係を考究した研究者である。博士は、環境問題を考察する際に、環境汚染負担とリスクの公正な分配を世代内・世代間どちらにおいても求める「環境正義」の概念が重要であることを提唱し、 現在 の環境問題に対する姿勢に警鐘を鳴らしてきた。博士が積極的に関与してきた、科学的知見を踏まえた合理的かつ定量的なリスク評価手法に基づく「環境正義」は、誰もが健全な環境で暮らせる社会の実現を目指す際の不可欠な指針となっている。
シュレイダー゠フレシェット博士の最大の功績は、その著書『環境正義』にもあるように、リスクと被害の定量的評価を再構成した点にある。博士の開発した手法では、リスクの多元性や、現実化した被害の地理的・時間的な拡散性、人々の幸福や健康を支えている生態系サービスや非市場的価値・資源など、従来の定量リスク評価やコストベネフィット評価に含まれてこなかった要素を考慮することによって、従来とは次元の異なる評価を行うことができるようになった。
博士は、このような学術的功績に加えて、社会的実践においても大きな業績を残した。博士は自身の開発した手法を用いて、アメリカにおける有害廃棄物管理や原子力発電(商用の核分裂産業)などの事業を検討し、これらの産業がもたらす可能性のある環境汚染やリスクおよび脆弱性が、人種、社会経済的格差、政治的立場、世代などの違いによって、時間的および地理的に偏在することを指摘してきた。そして、その是正を求める世界中のコミュニティは、博士の行った定量的リスク評価のおかげで、主張の社会的正当性を確保することができた。
博士は、さらに、企業や個人の持続不可能な慣行を個人主義的技術主義が擁護することによって地球環境コモンズの生態学的リスクを高めてきたことに警鐘を鳴らしてきた。地球規模での環境正義の実現が喫緊の課題となる現代社会において、博士の提唱した多面的なリスク評価において指摘された世代間の環境正義の実現は、特に重視されるべきものである。
今回、コスモス国際賞は30回目の授賞を迎える。賞の根本思想である「共生」が意味する「生命の関わり」に「環境正義」という科学的かつ哲学的なアプローチを行った博士の取組は、これまで本賞が顕彰してきた「生物多様性」「普遍性」「相互依存」「生態系サービス」等の多様な要素を包含しており、30回目の節目に相応しい受賞者であると評価した。
学歴
1966 |
ザビエル大学 学士(物理学) |
1967 |
ザビエル大学 エッジクリフカレッジ 学士 大学最優等位(数学) |
1972 |
ノートルダム大学 博士(科学哲学) |
1982 |
カリフォルニア大学 サンタバーバラ校 博士研究員(経済学) |
1983 |
カリフォルニア大学 サンタバーバラ校 博士研究員(水文地質学) |
1986 |
フロリダ大学 博士研究員(生物科学) |
職歴
1971-1973 | エッジクリフカレッジ 助教授(哲学) |
1973-1982 |
ルイビル大学 教授(哲学、自然科学) |
1982-1984 | カリフォルニア大学サンタバーバラ校 教授(科学哲学、環境学) |
1984-1987 |
フロリダ大学 教授(哲学、自然科学) |
1987-1998 |
南フロリダ大学 特別栄誉教授(哲学、環境科学) |
1998-2019 |
ノートルダム大学 オニール家講座 教授(哲学、生物科学) |
2019- 現在 | 現職 |
主な論文・著書
1. Tainted: How Philosophy of Science Can Expose Bad Science New York: Oxford University Press, 2014
2. What Will Work: Fighting Climate Change with Renewable Energy, Not Nuclear Power New York: Oxford University Press, 2011
3. Taking Action, Saving Lives: Our Duties to Protect Environmental and Public Health New York: Oxford University Press, 2007
4. Environmental Justice: Creating Equality, Reclaiming Democracy New York: Oxford University Press, 2002
邦訳:「環境正義: 平等とデモクラシーの倫理学」勁草書房,2022
5. Technology and Human Values, coedited with Laura Westra Savage, MD: Rowman and Littlefield, 1997
6. The Ethics of Scientific Research Savage, MD: Rowman and Littlefield, 1994
7. Method in Ecology: Strategies for Conservation Problems, coauthored with biologist Earl D. McCoy Cambridge: Cambridge University Press, 1993
8. Burying Uncertainty: Risk and the Case Against Geological Disposal of Nuclear Waste Berkeley: University of California Press, 1993
9. Policy for Land: Law and Ethics, coauthored with political scientist Lynton K. Caldwell Savage, MD: Rowman and Littlefield, 1993
10. Expert Judgment in Assessing Radwaste Risks Carson City, Nevada: Nuclear Waste Project Office/US Department of Energy, 1992
11. Risk and Rationality Berkeley: University of California Press, 1991
邦訳:「環境リスクと合理的意思決定―市民参加の哲学」昭和堂,2007
12. Nuclear Energy and Ethics, edited volume Geneva: World Council of Churches, 1991
13. Risk Analysis and Scientific Method Methodological Ethical Problems with Evaluating Societal Hazards Boston: Kluwer, 1985
14. Science Policy, Ethics, and Economic Methodology: Some Problems with Technology Assessment and Environmental-Impact Analysis Boston: Kluwer, 1984
15. Four Methodological Assumptions in Risk-Cost-Benefit Analysis Springfield, Virginia: National Technical Information Service, 1983
16. Environmental Ethics Pacific Grove, California: Boxwood Press, 1981; second edition, 1991
邦訳:「環境の倫理」晃洋書房,1993
17. Nuclear Power and Public Policy: Social and Ethical Problems with Fission Technology Boston: Kluwer, 1980; second edition, 1983