成果の要約 |
栃木県奥日光地域における防鹿柵内外のミズナラ林において、以下の分類群の相対密度調査を実施した。なお、柵内の林床はササ類が優占がするが、柵外ではニホンジカ(以下、シカ)の不嗜好性植物であるシロヨメナが優占する林床および裸地に置き換わっている。
- 昆虫類
マルハナバチ類の種組成に関して、柵内外で顕著な違いがみられた。柵内ではヒメマルハナバチおよびナガマルハナバチが捕獲された一方、柵外では捕獲および観察されなかった。これらの2種はシカの嗜好性植物への訪花割合が高かったことから、シカの高密度化によりシカの嗜好性植物が減少したことにより負の影響を受けている可能性が示唆される。 - カエル類・ヘビ類
カバーボード法(Douglas et al.2006)を用いた生息密度調査を実施したが、ボード上に出現した個体はいなかった。今後、調査方法を改善し、再度調査を実施する必要性がある。 - モグラ類
モグラ類の捕獲個体数は、柵内では延べ4個体、柵外では延べ1個体捕獲された。1晩あたりの捕獲個体数は、柵内外で有意差は認められなかった。捕獲個体数が少なく、シカによる影響を検討するまでに至らなかった。今後、捕獲方法を改善し、再度調査を実施する必要性がある。 - ネズミ類
ネズミ類の捕獲個体数は、柵内では延べ106個体、柵外では延べ15個体捕獲された。1晩あたりの捕獲個体数は、柵外よりも柵内で有意に多かった。ササ類はネズミ類のカバー(避難所)として重要であり、ササ類の消失はネズミ類の消息に大きく影響することが指摘されている。このことから、柵内でネズミ類が多かった要因の一つとして、カバーの有無が関係しているものと推察される。しかし、柵外においても夏期には、カバーとなるシロヨメナが繁茂していた。以上から、ネズミ類の生息には、ササ類などの通年カバーを維持する植物が優占する林床がより重要であることが示唆される。 - フクロウ
フクロウの鳴き返し個体数の平均は、柵外よりも柵内で有意に多かった。フクロウは繁殖期には、食性がネズミ類に特化していることが報告されている。このことから、ネズミ類の現存量の違いに応じて、柵内外のフクロウの相対密度に違いが生じたものと推察される。 - アカギツネ・ニホンテン
センサーカメラによるアカギツネ(以下、キツネ)の撮影回数は、柵内では8回、柵外では10回であった。ニホンテン(以下、テン)の撮影回数は、柵内では8回、柵外では11回であった。キツネとテンの柵内外における撮影頻度には有意差は認められなかった。 キツネの糞分析の結果、キツネはシカおよびネズミ類、昆虫類、ミミズ類、果実類を主な餌資源としていた。また、柵内外の糞内容物の出現頻度を比較した結果、柵外では柵内に比べ、シカおよび昆虫類(コガネムシ科・オサムシ科)、ミミズ類の出現頻度が高く、ネズミ類の出現頻度が低かった。 テンの糞分析の結果、テンはネズミ類および昆虫類、果実類、ミミズ類、果実類を主な餌資源としていた。また、柵内外の糞内容物の出現頻度を比較した結果、柵外では柵内に比べ、昆虫類(オサムシ科・カマドウマ科)の出現頻度が高く、ネズミ類の出現頻度が低かった。 キツネとテンは、ネズミ類のほかに昆虫類やミミズ類なども食物資源として利用していた。そのため、両者の密度が単純にネズミ類の現存量だけで決まっているわけではない可能性が高い。特に柵外においては、シカの影響により一部の昆虫類とミミズ類が増加していることが報告されている。これらの結果は、シカによる負の間接効果(ネズミ類の減少)と正の間接効果(昆虫類とミミズ類の増加)が、キツネとテンの個体群に同程度に作用している可能性を示している。
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