予定通り、以下4つの市民調査を実施した。
- 島民と動植物の関係史調査(聞き取り調査)
- 希少植物調査(コドラート調査、保全対策を含む)
- ヤクシカ糞分解率調査
- 食害実態調査(シカ柵調査、コドラート調査)
①島民と動植物の関係史調査(聞き取り調査)
- ヤクシカ・ヤクザルが禁猟となる以前の時代(戦前および戦後1970年頃まで)に、狩猟に参加していた古老3名から聞き取りを行った。その結果、肉だけでなく、皮や内臓など、すべからく利用していたことが明らかになった。また、肉だけでなく皮も換金資源であり、魚よりも森林資源(シカ・サル・山菜類)を利用して暮らしていた人々の暮らしの一端が明らかになった。今後、その暮らしが高度成長と保護政策により急速に消えていった過程を追加調査する予定。
②希少植物調査(コドラート調査)および④食害実態調査
- 調査の過程で、当初予定していた調査地に加え、絶滅危惧種の未確認群落が発見された。そのため、調査回数を増やして実態把握を試みた結果、いずれの群落もヤクシカの食害を受け、特に屋久島南部と口之永良部島の群落が急速に退行していることがわかった。
- 上記の調査結果では、食害実態が局所的に激化する傾向が見られたため、ヤクシカの被害地周辺での行動観察も試みた。
③ヤクシカ糞分解率調査
- 予想以上の風雨と降雨により多くのプロットが流出・消失したが、分析可能なデータが得られ、他地域に較べて分解率の落ちる期間(冬)が短く、また、春と秋の分解率が非常に高いという特徴が明らかになった。このため、現在のヤクシカ管理で用いられている仮定分解率は修正する必要があり、そこから推定されるヤクシカの生息頭数はかなり大きくなる(上方修正すべき)ことがわかった。また、気候・気象の異なる島の方位および標高によっても糞分解率は非常に大きく異なっており、現在の個体数推定や管理の方式はこれまで予想されている以上に大きな誤差を含むこともわかった。また、これらの市民調査の結果を地元で発表し議論・普及・応用するための場として「屋久島学ソサエティ」の立ち上げに協力するとともに、平成26年5月開催予定の「第2回全国照葉樹林サミット」の企画・準備にも協力し、市民調査の結果が屋久島の生態系保全管理政策につながる仕組みをつくりつつある。なお、当初予定した「屋久島レッドデータリスト」の発行は、新たな絶滅危惧種群落の発見と、それらの情報公開の制約などから、ペンディングとなっており、諸機関で調整の上で平成26年度中の発行をめざしている。また、「屋久島の人と野生動物との歴史」については、聞き取り調査の進展を待って冊子発行の予定である。
開催協力した「屋久島の自然展」 (於屋久島学ソサエティ設立総会)
ヤクシカ食害実態調査風景
狩猟史聞き取り調査のようす
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