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花博自然環境助成事業

令和2年度助成事業 成果概要の報告

団体名(所在地) 生命の星・地球博物館 入生田菌類誌調査グループ〔神奈川県〕
事業名 市民参加型調査に基づく大規模な地域菌類誌の出版
事業の実施場所 神奈川県立生命の星・地球博物館内および同博物館周辺(神奈川県小田原市入生田)
事業の実施期間 今回計画 :令和2年4月~令和5年2月(助成対象期間) (新型コロナウイルス感染症の影響による事業中断が生じたため、助成期間を令和4年度まで延長)
事業の概要 神奈川小田原市入生田地区では、県立生命の星・地球博物館のボランティアメンバーが中心となって、これまでに約一万点の菌類標本が採集され、同博物館に収蔵されてきた。これらの標本を基に、地域自然誌の集大成となる学術性の高い菌類誌を、博物館を拠点に一般市民(アマチュア)と専門家の協働で作成し、出版する。
成果の要約

神奈川県立生命の星・地球博物館では、一般市民からなるボランティアが中心となって周辺地区(小田原市入生田)での菌類調査を2000年からほぼ毎月実施しており、過去に同地で収集された博物館収蔵標本は約10,500点に上る。その中には希少種、未記載種など、学術上重要な菌の標本も多く含まれる。2011年には、これら入生田産菌類の記録をまとめた資料『入生田菌類誌資料第1巻』を作成・公開したものの、掲載種数が限られ、同地域の菌類の全貌を掴むには不十分であった。

そこで、2016年より、掲載種数を増やしデータも拡充させ、地域自然誌としての実用性と学術的価値をより高めた、新たな菌類誌の作成を開始した。作成にあたっては、生命の星・地球博物館の菌類ボランティアのメンバーのほか、菌類学を専攻する学生や博物館の菌類学講座を受講した一般市民からなる「生命の星・地球博物館 入生田菌類誌調査グループ」が結成され、市民参加型調査として標本の採集・観察・データ収集が行われた。原稿執筆と図版作成・編集作業も、博物館学芸員の監修・指導のもと、グループのメンバーが分担しておこなった。途中、新型コロナウイルス感染症により長期の活動中断を余儀なくされたが、2021年度後半よりオンラインミーティングも活用しつつ活動を再開し、2022(令和4)年度には編集体制を確立させて活動を本格化、2023年2月に、入生田でみられる多様な菌類を掲載した412ページの大型資料『新・入生田菌類誌』が完成し、無事出版される運びとなった。本誌には、大型菌類(きのこ類)だけでなく、微小なカビ類、菌類と藻類との共生体である地衣類、植物病原菌類、変形菌(粘菌)類など、あらゆるグループの菌類計189種について、博物館収蔵標本に基づく記載と生態写真・顕微鏡写真が掲載されており、一部の種についてはDNAバーコーディング領域の塩基配列情報も含まれている。また、掲載内容については、各分類群の専門家により監修がなされた。それにより、入生田地区の菌類多様性の全貌が概観できるだけでなく、学術的にも利用価値の高い資料となっている。

本助成事業により、市民参加型調査に基づく大規模な地域自然誌『新・入生田菌類誌』が完成・出版された。2011年に公開された『入生田菌類誌資料 第1巻』では、生命の星・地球博物館菌類ボランティアのメンバーにより執筆されたが、今回出版された『新・入生田菌類誌』では、掲載種数を81種から189種へと大幅に拡大し、ボランティアメンバーだけでなく学生や菌類を愛好する一般市民も広く執筆に参加した。原稿は専門家により入念にチェックがなされ、本格的な学術利用に堪える内容の維持に努めた。さらに、編集作業についても、博物館学芸員の指導のもと、調査グループのメンバーが主となっておこなった。

 今回出版された『新・入生田菌類誌』は400ページ超の大型資料であり、一般市民が中心となって作成した菌類学の資料としては、世界的にもおそらく殆ど例の無いものである。また、掲載種のDNA情報の取得にあたっても、調査グループのメンバーによりDNA抽出からPCR、電気泳動といった一連の実験が行われた。この点においても本事業は非常にユニークであり、市民参加型調査の一つのモデルケースとなり得る成果であると考えられる。

 『新・入生田菌類誌』の注文受付も既に開始しており、今後は、県内の公立図書館や全国各地の博物館などの関係機関に配布(寄贈)される。本事業により完成した『新・入生田菌類誌』が、分類学を始めとした学術研究やレッドデータブックなどの希少種保全活動、全国各地の自然誌研究への利活用のほか、普通種から希少種まで、多様な菌類を掲載した図鑑としても、広く利用に供されることが望まれる。

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