(1)学術的研究 a.金華山島のシカは、1989年より継続的に個体識別され、各個体の生存・繁殖状況が記録されてきた。このような詳細な個体情報を伴う長期的なモニタリング研究は世界でも稀であり、そのデータは個体ベースのシカの行動や繁殖と集団レベルの個体群動態の関係性を理解する上で重要かつ貴重である。 出産と繁殖状況の確認には、生息個体の全個体の識別と出産状況の確認が必要である。全個体の出産を確認するには、出産前に各個体の妊娠状況を確認することが重要である。そこで、出産期直前の5月14日〜5月28日に調査対象のメス85個体の妊娠状況を目視により査定した。7月25日〜8月4日に、妊娠を確認していたメスを中心に当才仔を連れているかを確認した。また、その当才仔を追跡して陰部を目視し性別の判定を行い、さらに顔、胴体の鹿子模様を撮影して成長後の識別が継続できるようにした。その結果、31個体(オス15個体、メス11個体、死亡のため性別不明5個体)の出生を確認した。 b.金華山では、このような正確な出産確認による出生率の把握を行っているが、センサ−カメラによって集団レベルの出生率を推定できるかについても調べている。そのために、5月、7月、10月にセンサーカメラのデータ回収と電池交換を行った。 c.金華山で、10月3日から10月25日まで、発情期にオスの社会構造の調査と交尾関係の調査を行った。 (2)環境学習素材化 a.近年シカの個体数が増えつつある牡鹿半島部での野生動物の生息状況を確認するために、10月から3月まで牡鹿半島先端の鮎川浜周辺に4台のセンサーカメラを設置し、撮影を試みた。また、金華山島と牡鹿半島で景観や植物の撮影を行った。 b.環境学習の実践として、牡鹿半島ビジターセンターのセミナー「霊島金華山とシカの暮らし〜シカの角切り行事祭から見るシカの生態〜」にて、シカの角の紹介を中心とした環境学習素材を使用して話題提供した。 c.野生動物調査の専門家や牡鹿半島のハンター、石巻専修大・麻布大学の学生などを対象に、3月末にシカの長期継続調査に基づくシカの個体群動態などの講義と現地でのシカの行動観察を行う予定である。 d.糞虫の採集などは、コロナウイルス感染拡大の影響で実施出来なかった。
(1)学術的研究 a.1989年から継続している識別個体の長期追跡研究の継続が行えた。本年度の調査の結果、4年連続で死亡数と出生数がほぼ同数であり、生息密度が高止まりの状態であることがわかった。 b.秋の繁殖活動の調査の結果、神社境内や周辺へのメスの出没が減少し、オスのなわばり形成が減少、メスの発情も少なかったことがわかった。優位個体の死亡や負傷などの要因もあるが、オスの社会構造の変化がみられた。震災後10年を経て参拝客や観光客が少し戻ってきたが、それでも餌をあげる人も少なく、シカの神社への滞在が減ったことが影響していると思われる。 c.センサーカメラによる集団レベルの出生率の推定の可否については、数年間のデータの集積が必要で、まだ結果が出せない。 (2)環境学習素材化 a.牡鹿半島部でのセンサーカメラによる撮影は、撮影枚数が多くなく、成果としては乏しかった。 一部にシカが撮影されたが他の動物は撮影されなかった。 b.牡鹿半島ビジターセンターでのセミナーには石巻や仙台など地元の家族連れが参加された。 https://oshika-vc.jp/blog/497 c.複数の環境教育プログラムを作成できた。
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