団体名(所在地) |
国際湿地生物研究グループ〔滋賀県〕 |
事業名 |
消滅の危機にある塩性湿地の水生双翅目昆虫相の解明 |
事業の実施場所 |
南西諸島における環境省選定の重要湿地 屋久島,種子島,奄美大島,沖縄本島,久米島,南大東島,石垣島,西表島,与那国島 |
事業の実施期間 |
2021年4月1日~2022年2月28日
コロナの影響のため、調査を1年延期した。 |
事業の概要 |
日本の干潟は開発などにより戦後40%以上が減少し、特にその後背湿地である塩性湿地の大部分は失われた。かろうじて残されている南西諸島の塩性湿地のうち環境省が選定した重要湿地において、湿地生態系の鍵となる分類群の一つである水生双翅目昆虫の種多様性を明らかにし、環境の指標生物として活用できるようにする。 |
成果の要約 |
成果の要約 環境省が設定した日本の重要湿地のうち、南西諸島の塩性湿地においてアシナガバエの分布調査を行った。昆虫網を用いて、スィーピング法で採集した。 本研究では、アシナガバエの最盛期である5〜7月に現生種の判明率が80%を越えるような徹底した分布調査を行い、高い精度の分布データが得られた。調査によって採集されたアシナガバエは標本にして、種の同定をおこなった。 これまで国内の塩性湿地において水生双翅目昆虫はほぼ調査されてこなかったため、今回採集したなかから、未記載属・未記載種(新属新種)が複数発見された。新種は今後、学術雑誌にて正式に記載命名される予定である。 得られた種のリストは、生息環境と対応させて、生息する種により環境が評価できるものとした。新種発見のニュースや調査ツールは、希少な塩性湿地を守るための社会へのアピールとして活用できる。日本の塩性湿地の生息種が明らかにされ、世界の対象種と比較可能なデータが蓄積できた。 令和3年4月〜5月:調査に向けての情報収集 令和3年5月9日〜6月3日:野外調査(No.は環境省が選定した重要湿地番号) ・沖縄本島(No.574 名護市 大浦川河口部) ・沖縄本島(No 583 金武町 億首川流域) ・久米島(No.603 久米島町 久米島の干潟および河口) ・南大東島(No.604 南大東村 南大東島の池と洞窟群) ・石垣島(No.616石垣市 吹通川河口および沿岸) ・西表島(No.626 竹富町 仲間川) ・与那国島(No.633 那国町 与那国島の湿地・河川) 令和3年6月27日〜7月15日:野外調査(No.は環境省が選定した重要湿地番号) ・種子島(No.549 西之表市・南種子町 種子島のマングローブ湿地) ・屋久島(No.554 屋久島町 栗生川) ・奄美大島(No.557 奄美市・大和村 奄美大島の川内川および海) 令和3年8月〜9月:標本作成 令和3年10月〜12月:データ集計、取りまとめ 令和4年1月:成果報告書準備 令和4年2月:報告書の作成 今回の調査研究では、屋久島から与那国島にかけての亜熱帯域である南西諸島の塩性湿地で調査を行い約4,000個体のアシナガバエが採集された。その結果、アシナガバエ科昆虫は6亜科14属33種が確認され、そのうち未記載属(新属)である可能性のあるものが2属、未記載種(新種)である可能性のもあるものが26種も見つかった。これらの発見された未記載属や未記載種の多くは、この地域からしか発見されておらず、固有属や固有種の可能性が高いものである。これにより、南西諸島の塩性湿地における水生双翅目昆虫のアシナガバエ相の多様性が高いことが明らかとなった。これらの地域の塩性湿地の自然は守るべき、貴重なものであることが示唆された。 塩性湿地の中でも、干潟と潮間帯の岩礁ではアシナガバエの多様性が高かった。これらの環境には、アシナガバエの食物となる節足動物が豊富に生息していたためと考えられる。また原始的な自然でなくても、塩田が放棄されマングローブ林が戻りつつあるような場所においても、多様な種類のアシナガバエが見られた。これらの周辺地域には供給地というべき残された自然があるために、一度開発された場所でも自然が回復されている状況にあると思われた。このような地域は今回調査した南西諸島だけではなく、九州や本州にも見られる。塩性湿地は開発されやすい場所でもあり、開発が進む前に自然環境の希少性を訴えていくことで、国内全体の塩性湿地の保全を進めていく必要があると考える。
|