ヤリタナゴについては、愛知県、岐阜県、三重県、静岡県および比較のために近隣の滋賀県、福井県、石川県、富山県、新潟県、福島県、大阪府、奈良県の集団も用いてmtDNAのcytb領域を解析した。その結果、静岡県の集団は、愛知県、岐阜県、三重県の集団と遺伝的に離れていた。このことは、東海地方の中でも静岡県の集団の遺伝的固有性が高いことを意味している。愛知県の新川水系からは、東海系統に加えて近畿系統が検出された。この結果は、Tominaga et al. (2020)の結果を追従するものであり、新川水系ではヤリタナゴの遺伝的撹乱が進行していることが改めて示された。他の水系からは、他地域由来のDNA型は検出されなかった。これらことから、東海地方のヤリタナゴの遺伝的撹乱は、現状では一部の地域の留まっていると考えられた。
アブラボテについては、愛知県、岐阜県、三重県および比較のために近隣の滋賀県、大阪府、福井県、奈良県の集団も用いて、ヤリタナゴと同様の遺伝的解析を行った。その結果、岐阜市長良川水系の1地点から九州の遺伝的系統が検出された。この結果については、向井(2019)の結果を追従するものであり、岐阜市ではアブラボテの遺伝的撹乱が進行していることが改めて示された。また、三重県北部の員弁川水系の2地点および愛知県矢作川水系の河川から滋賀県に分布する本種のDNA型と一致する個体が得られた。このことは、三重県北部および愛知県矢作川水系において、他地域由来の集団が移入されていることを意味している。特に三重県員弁川水系では、水系内の別地点から在来の可能性が高いDNA型が検出されており、遺伝的撹乱が懸念される。また、比較に用いた滋賀県の個体の一部から、九州の系統と一致するDNA型が得られた。このことは、滋賀県において、九州からの個体による遺伝的撹乱が生じている可能性が高いことを意味する。本研究では比較のためのサンプリングであったため解析した地点数や個体数が限られているが、今後遺伝的撹乱の程度を確かめるため、滋賀県内のアブラボテの詳細な集団構造を調査する必要がある。
東海地方の両種の分布域を網羅した在来・外来・遺伝的撹乱集団の分布域を特定した。
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