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花博自然環境助成事業

令和5年度助成事業 成果概要の報告

団体名(所在地) NPO法人生物多様性研究所あーすわーむ〔長野県〕
事業名 浅間山の草原・森林における動植物モニタリング調査
事業の実施場所 浅間山湯の平、浅間山麓
事業の実施期間 今回計画 :令和5年4月〜令和6年2月29日(助成対象期間) (全体計画:令和3年4月~令和6年3月)
事業の概要 浅間山麓では亜高山帯、偽高山帯に貴重な自然草原が存在する。しかしシカの採食圧や森林化、乾燥化等により、草原環境の維持が危ぶまれている。その草原の生物多様性の維持のために、生息する動植物のモニタリング調査を実施し、当該地の保全に向けての効果的な方法や対策について考察する。
成果の要約

<つつじヶ原>
1.方形区(刈り取区と対照区)における植生調査では、刈り取り区のみが刈り取り前と刈り取り後に年数が経つにつれ、その群集構造に変化が見られ、レッドリストに記載されているヤマトキソウや草原性植物のアヤメやオトギリソウも記録され始めたが、生物多様性の指標である多様度に有意な差はみられていない。また、両方形区ともに2021年から出現種数が減少した。刈取りがシカやイノシシにとっては採食しやすい環境の創出ともなっているようで、採食圧や掘り返しにより草原性植物の回復が抑制されていることが示唆された。

2.センサーカメラ調査では、シカが70%以上撮影され、個体数および密度の増加を示すものと思われる。また、5月には3世代の群れと思われる30頭近くのイノシシが撮影され、頻繁の掘り返し行動が撮影されていた。6月以降は、イノシシの撮影はほとんどなくなり、シカの撮影回数が増加した。方形区に設置したカメラは誤作動が多く、そのため、撮影期間が限られた。撮影されなかった期間に、イノシシやシカが方形区の中に侵入していたことが、掘り起こし跡や採食痕により確認された。草原維持において、これら2種の生息が影響を及ぼしていることから、今後、物理的に侵入できない柵の設置を検討しているところである。

<湯の平>
1.ドローンによるシカの直接的な観測を8月および10月に、それぞれ2回ずつ調査を行った。その結果、39〜81頭(シカ、カモシカ、不明含め)が観測された。調査時間帯が早く暗かったこと、カラマツの落葉前で林内の個体の判別が難しかったことから、種の判別率は低くなったが、不明と判断した個体は観察された環境や群れサイズからシカであると考えられた。2021年2023年までの調査結果から、シカの個体数増加が示唆された。

2. 2018〜2020年に東邦大学植物生態学研究室により実施されていた湯の平でのシカによる樹皮はぎ調査を当法人で引き継いで、調査を3回実施した。3地点(20×20m 四方の区画)で、ナンバリングされた計175本の樹木および樹皮はぎ防止ネットを巻
いた32本について、新たに確認されたシカによる剥皮や角とぎを記録した。その結果、シラビソの剥皮率は76.7%、枯死率16.7%、ナカマドでの剥皮率は90%、枯死率15.4%となった。シカの影響が草本類だけでなく木本類へも大きく影響していることがわかった。下層植生も消失してきたことから、森林の更新が困難な状態までシカの影響が及んでいると考えられた。

3. 8月上旬の2日間、登山道沿いおよび湯の平でチョウのモニタリング調査を実施した。登山道や草原内を歩きながら、確認したチョウの種類と位置を記録した。8月3日は19種134個体、8月4日は17種228個体が記録された。ササを食草とするクロヒカゲ、高山蝶であるベニヒカゲの個体数が多かった。昨年度に比べ、季節が2週間遅いこと、天候が良くチョウの活動が活発であったことが、昨年度の種数と個体数(13種88個体)よりも多かった理由であると思われる。湯の平の開けた環境では吸蜜行動を行う複数種のチョウが観察された。防鹿柵の外においてはシカの忌避植物であるマルバダケブキやバイケイソウ以外はほぼ開花しておらず、それらの植物に吸蜜に来ていた。生息するチョウの種数は植物の多様性と関係するため、湯の平ではシカによる採食圧でチョウの食草となる草本類植物が減り、チョウの多様性にも影響を及ぼしている可能性がある。
亜高山の草原環境は脆弱であり、このままシカの高密度状態が続くと、草本類への影響が加速し、植生の変化とともに昆虫相への影響が出るだろう。

4.生息する小哺乳類として、新たにミズラモグラが確認された。

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